連載第16回 有名料理人が語る料理と日本酒

ミシュラン獲得から12年 焼き鳥界を牽引するレジェンド『鳥しき』池川氏が選ぶ日本酒5選

更新日Jan 14, 2022

この記事をシェアする

ShareTweet
特集画像1

予約が取れない焼鳥の名店といえば誰もがすぐに頭に思い浮かべるに違いない『鳥しき』。今でこそ“近火の強火”で焼く職人も増えたが、15年前のオープン当初は常識はずれと言われる火入れ方法で焼鳥業界を驚かせた。というのも、一般的には焼鳥は近火で焼くと火が通るまでに表面が焦げてしまうため、炭から10㎝ほど離してじっくりゆっくり焼く“遠火”が良いとされてきたのだ。しかし、池川氏は素材の水分が染み出さないように炭から1㎝、350℃以上という高温で表面を素早く焼き固めたら、あとは肉の中の水分を保ちながら芯まで火を入れるために串をひたすら小まめに回転させて表面温度を操っている。こうして実現する池川氏の焼鳥は、外側は弾力がありながら、噛み締めるとジューシーな肉汁が口の中で広がり、香りや旨みが膨らむ。素材を生かし切る理想の火入れだが、高温との戦いは想像を超える度胸と勘所と熟練が必要だ。

特集画像2

片時も焼き台から目を離せない究極の火入れを自ら選びながら、客の好みはもちろん居心地にも心を配り、弟子たちに次々に指示を送る池川氏。仕事に立ち向かう姿にレジェンドの風格が漂う。弟子たちの活躍の場として2017年からは店舗展開も始め、東京、京都、NYで6店舗に増やしている。 焼鳥という日本の誇るべき文化、職人技を世界に広めるべく邁進する池川氏。「“焼鳥で一杯”と昔から人々の生活に馴染んでいたように、切っても切り離せない関係です」と、日本酒に関しては近年の多様化に向けて新しい提案もできるよう勉強中という。連載第16回では、池川氏のホスピタリティについて伺った。

特集画像3

私が修業時代に親方から学んだなかで一番大切にしているのは「自分を出さない」こと。これが結果的に自分を醸し出す雰囲気を作り出せるということに繋がるのです。一見禅問答のようですが……。自分が主役になるのではなく、お客様のニーズに敏感になり、それに応えられるよう気持ちを入れて接客し、心地良く楽しい時間を過ごしてもらうようにしていれば自ずとそこに私の思いを感じてもらえるようになる、ということでしょうか。

特集画像4

お酒に関しても、自分の好みというよりも、お客様の好みに応えられるようにと、タイプ別に人気銘柄を4〜5種類用意していました。でもここ数年で日本酒が驚くほど多様化し、同時にお客様の好みも多様化……。お客様の選択肢をもっと楽しくする、あるいは説得力のある品揃えの工夫をしなければと考えるようになりました。私自身が蔵元の姿勢に共感を持って選び、なぜこのお酒を美味しいと思ったり、この串に合わせたいと思ったりしたのかなど、自分の思いものせる方がお酒の説明にも説得力が増すのではないかと。そこで、最近は一升瓶よりも四合瓶にして種類を増やし、基本の8アイテムに加えて季節酒を2、3種類用意しています。いくつかの提案の中からお客様に選んでもらったり、好みをお聞きしてお出ししたりで、細かいペアリングはしていません。焼鳥はとても包容力があり、お酒との関係でNGという組み合わせはありませんから。

鳥の煮込みのバゲット × ESHIKOTO AWA 2018(石田屋)

鶏の6種類の部位を使った味噌煮込みは、数日寝かせて味を落ち着かせています。以前はご用意があるときだけの裏メニューだったのですが、最近は炭で焼いたバゲットの上にのせて山椒を振り、串の前の一品目としてお出ししています。まずは口を潤して欲しいので、キンキンに冷やしてお出しできる泡を合わせたいと思いました。 「ESHIKOTO AWA 2018」は、黒龍酒造が製造し、黒龍・九頭龍蔵元直営店の『石田屋』が販売している限定酒です。シャンパーニュ製法と同じ瓶内2次発酵を15ヶ月以上行い、デゴルジュマン(澱引き)をしたあとさらに10ヶ月以上熟成させたという新しい試みで、従来の日本酒の発泡タイプよりもさらにドライでスッキリとした味わい。キリリと美しい余韻は、乾杯酒として理想的なのはもちろん、濃厚な煮込みの味を一気に流し、次に繋げてくれるのです。また、シャンパーニュのような酵母の香りとバゲットのパン酵母の香り、味噌の麹、そして山椒の香りが同じトーンで鼻腔をくすぐる感じも気に入っています。石田屋さんが販売している「ESHIKOTO AWA 2018」は現在完売しておりますが、今後発売されるヴィンテージ違いの商品を是非試してほしいです。

黒龍酒造株式会社|福井県
この日本酒詳細を見る

かしわ × 山形正宗 1898

かしわは、焼き鳥に対する私の考え方はもちろん、伊達鶏の魅力がわかりやすく伝わる1本です。火の当たりが強い真ん中は肉を大きめに、弱い部分は小さい肉を刺し、表面は香ばしく焼き上げますが、噛むとふっくらとしてやわらかく、肉の重なった部分はしっとりレアな食感も感じつつ、舌の上に旨みの凝縮したジューシーな肉汁が溢れるような火入れを心掛けています。 「山形正宗」のように豊かなお米の旨みと太い酸、シャープな切れ味のお酒は、かしわだけでなく、焼鳥全般に合う万能感があり、誰もが美味しいと感じるタイプだと思います。なので、お客様からお酒は任せでと言われたら、まずは「山形正宗 1898」をおすすめしています。これは、岡山産の赤盤雄町を使い、乳酸菌も手作りにした生酛造りのお酒です。火入れしたタイプよりもさらにコシの強さが加わり、時間が経っても酸がしっかり残っているので飲み飽きることがありません。硬質の仕込み水ならではのシャキンとしたキレ、それでいて優しい飲み心地のおおらかさで頼り甲斐があります。温度も冷や、常温、ぬる燗までと美味しく飲める幅が広く、飲食店として扱いやすいのもいいですね。

株式会社水戸部酒造|山形県
この日本酒詳細を見る

ブロッコリー、銀杏、うずら × 七本鎗 無農薬純米 無有(ムウ) 生酛

焼鳥の合間にお出ししているブロッコリーや銀杏しいたけ、とうもろこしなどの野菜は、しっかり時間をかけて焼いています。1年ほど前からメニューに加えたブロッコリーは鶏の脂やオリーブオイルを塗りながら20〜30分焼きます。ブロッコリーといえば鮮やかな緑、というイメージを完全に裏切る色に皆さん驚かれます(笑) 房の粒々を感じるようなジャキッとした食感とともに立ち上がる炭の香ばしさを楽しんでもらいつつ、水分を溜め込んだ茎の部分からは野菜のミネラリーな旨みや甘みが溢れ出てくるような焼き方にしています。 こういった焼き方の野菜にぴったりくると感じたのは、七本鎗の「無有」です。蔵元自らが無農薬栽培のお米で生酛造りにしたこのお酒には、発酵が穏やかなせいか最初は静かな優しい印象なのですが、次第にじわじわと大地の力強さが舌の上に染み込んできて、炭の香りに負けない凜としたミネラル感に満たされていきます。米と野菜、大地の生命力が引き合うという印象。クリアな後味も爽快です。

冨田酒造有限会社|滋賀県
この日本酒詳細を見る

とり皮、せせり、さえずり、軟骨、つくね × AFS ORIGINAL TANK

首や羽根の付け根の手羽、軟骨、内臓など鶏の部位の中でも、特によく動かす部位は歯応えがあり、旨みも強い。脂の質感もねっとりとしてコクがあるので、レモンを絞って食べるような感覚のお酒を合わせたくなります。私が気に入っているのは、甘みと酸味のメリハリ、強い旨みが印象的な木戸泉酒造×IMADEYAさんの『アフス オリジナル』です。初めて飲んだとき、脂をこんなにキャッチできるお酒はない、と感動。脂の甘みを強調しながらも、厚みのある酸で流してくれるので、脂の多い部位に合わせるには理想的です。ワインにも似たところがあり、NY店でも大変好評です。とはいえ、個性的な甘味と酸味は好みが分かれるところなので、お客様によって『モダン仙禽 無垢』と使い分けています。

木戸泉酒造株式会社|千葉県
この日本酒詳細を見る

レバー × 貴醸酒 陽乃鳥

レバーは焼けば焼くほど内臓特有の雑味が出てくるので、火入れが難しい部位です。クリアな味わい、クリーミーな食感にするため、軽く炙る程度に留めて炭の香りをまとわせてお出ししています。瑞々しいレバーの甘みや鉄分の強いコクには、甘みと熟成による複雑な味わいが合うので、貴腐ワインのような上質の甘みを持つ新政酒造の貴醸酒、『陽乃鳥』を選びました。とろみのある滑らかな甘さがレバーの甘みや質感に相乗して口の中で膨らみますが、綺麗な酸とほんのり柑橘の苦味のお陰で舌の上にネガティブなものが一切残らず心地よい余韻が続くのです。こちらもNY店でお出ししたら大変喜ばれました。開栓したてのはっきりとした甘みもよいですが、時間が経てば経つほど甘みが落ちついてレバーの甘みにさらに寄り添ってくれます。

新政酒造株式会社|秋田県
この日本酒詳細を見る
まとめ1

放し飼いで健康的に育った伊達鶏。その魅力を最大限に発揮させるためにたどり着いた究極の火入れ、「近火の強火」。ここが池川氏のスタートだった。店を構えて15年。この究極の火入れをさらに極めるべく日々一串一串に気持ちを入れ、串の置き方、回し方、炭の並べ方に集中し、しかも、客の表情にも目を配り、できるだけ好みに合うよう焼き加減や串の種類の調整、お酒選びなど心を尽くしてのサービスを心掛けている。客からの賛辞にも頭を低く垂れ、「まだまだです」と心の底から答え、もっとできることを探し続ける。驕らず素材を立て、人を思うその人としての在り方こそが『鳥しき』の素晴らしさだ。その池川氏のお酒選びは、コロナ禍を機に大きく変わった。自分が焼く串との相性も考えながら色々なお酒を飲んでみる時間が増えたからだという。「蔵元の思いを自分の串にのせて世界に伝え、“思いをつなぐ”役割も果たせたら嬉しい」と話す池川氏。焼鳥を通して受け取るものの豊かさに心満たされる『鳥しき』。予約は取りにくいが、行くべき名店だ。

レストラン写真

鳥しき

東京都品川区上大崎2-14-12☎03-3440-7656 17:00〜21:00(最終入店) 休日曜・月曜 席カウンター12 席 ※予約方法/毎月最初の営業日の17時から翌々月の予約受付を開始https://tabelog.com/tokyo/A1316/A131601/13041029/
取材・文・写真:藤田実子
日本酒をより楽しめるアプリSakenomyを今すぐダウンロード!
日本酒をより楽しめるアプリSakenomyを今すぐダウンロード!
TOP