日本の伝統文化である「日本酒」と「映画」。異なる文化が交差した、次世代との対話。
更新日2022年2月9日
広島県のほぼ中央部、瀬戸内海に面した江戸時代に製塩業で栄えた町・竹原市に位置する竹鶴酒造。
食中酒として「食をおいしくする」こと。食がお酒と出会うことで、おいしさが何倍にもなる。そんな酒造りを目指すのは、この竹原の風土と歴史に深く関りがありました。
竹原で製塩業が始まる以前から約400年間この町と共に歩んできた竹原の風土と歴史に長く根差した竹鶴酒造だからこそ醸しだせる日本酒がある。
その竹鶴酒造が11月26日公開の映画スパゲティコード・ラブに共鳴。若い世代へ日本の伝統文化とその想いをつなぐため、映画のプロモーション活動を実践授業として取り組んできた、東京都上野の岩倉高校の生徒たちが酒造りについて取材しました。
「日本酒は難しいお酒だと思われてますよね」
「日本酒は難しいお酒だと思われてますよね」と語る竹鶴さん。多様性があり、専門用語も多い日本酒は取っつきにくいイメージがあり、飲酒経験のない高校生にとってはさらに難しく捉えられていると言う。
そんな中、竹鶴さんは次の世代に日本酒を伝えていく絶好の機会として今回の取材を承諾していただきました。竹鶴さんは高校生たちに優しく、丁寧に語りかけてくださいました。
「日本酒はどういう時に飲み、どんな味がするの?どんな種類があるの?」という高校生たちの質問に対し、竹鶴酒造がこだわる食中酒について竹鶴さんはお話ししていきます。
「日本酒には色々な種類があります。それが日本酒の特徴でもある。一度数えてみたことがあるのですが、6万種類くらいありました。とても覚えきれないですよね。これは日本酒業界の課題でもあって、多すぎて訳が分からない。マニアじゃない限り覚える必要もないし、気にする必要もないと思います。」と竹鶴さんは笑う。
「食前、食後に飲むこともありますが、やはり私自身は食事中に飲むことが多いです。人間の味覚には基本味と呼ばれる5つの種類があります。甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5つなんですが、その基本味の一つである、うま味成分が日本酒は世界一高いと言われていて、料理と合わせるとうま味がさらに増幅するんです。」
「料理酒を足した料理と足していない料理が全く別物になるように、日本酒を食事と一緒に飲むことによって、食事のおいしさが増幅するんです。口の中で料理をするんですね。」
口中料理とは文字通り口の中で食べ物がまじりあうことによって、様々で複雑な味わいを生みだす。そんなお酒は日本酒だけだと竹鶴さんは話します。
「日本酒のうまみ成分は他のお酒と比べても、格段に高く、アミノ酸量がビールが1だとするとワインが3、日本酒は8もある。料理と一緒に飲むことでさらに美味しくなるのは当たり前のことですよね。日本酒は飲まなくても死んでしまうようなものではないですが、食事はしないと生きていけない。日本酒は食事のお手伝い役であり、食事を美味しくすることが日本酒の役割だと思っています。」
竹鶴さんの「食をおいしくする」為の想いは酒造りだけでなく、飲み方にもつながっているのだと感じました。
「日本酒を通じて竹原を伝えたい」
「日本酒は竹原を伝える為の手段」と語る竹鶴さん。高校生からの質問で「日本酒を作るときに大切にしていることは?他との違いは?」という質問が出ました
「原料や製法も大事かもしれないですが、原料は取り寄せることが出来る。お金で買おうと思えば買えるんです。製法は伝統産業だけあって、勉強さえすれば誰でも真似できる。日本酒は真似されやすいんです。」
「じゃあ、竹鶴酒造の存在意義って何だろうと考えたときに、広島県竹原市の歴史と風土を味に反映する事なのではないかと思いました。それは他の会社には真似できません。歴史と風土をしっかり勉強して酒造りに取り組んでいくことが一番大切にしていることだと思います」と竹鶴さんは語ります。
瀬戸内海は四方を陸で囲まれ、山からの豊かな栄養分により魚介の餌となるプランクトンがよく育ち、また内海の地形は大きな干満差を生じ、速い潮流は身の引き締まった魚を育みます。竹原近辺は瀬戸内海でも特に干満差が大きい一方で島が多く、波穏やかで島々は魚介のゆりかごとなります。こうして育った魚介は他にないほどの深い味わいを備えます。そんな海の幸に必要なのが「うま味」であり、竹鶴酒造が目指している酒造りの原点でした。
そんな竹原の恵みを活かす日本酒造りを行って来たことがわかり、「日本酒は竹原を伝えるための手段」という言葉につながります。
日本酒原料の80%を占める「水」についても、他には真似できない点であるという。
「酒蔵の一角、地下126mから清浄な水が湧き出ています。これが竹鶴酒造の酒造りに使われている水です。日本酒の約80%が水であり、その性質はお酒の品質に大きく影響します。この水には塩化物イオンが多く含まれるのが特徴で、塩化物イオンには日本酒を濃醇な味わいにする効果があります。
竹鶴の日本酒に驚くほど豊かな「うま味」が備わっているのもこの水あってのこと。私たちの酒造りに、最適の水があるのです。」
全国に1300社程あると言われている日本酒メーカーでも「水」について考えている所は非常に少なく、原料米にばかり考えが集中している。そこは考え直さないといけない点だと竹鶴さんは言います。
「日本酒の原料米はワインの原料のぶどうと違って輸送ができる事が大きな特徴だと思っています。ぶどうは輸送をしようとしてもすぐに腐ってしまうので地元の物を使うしかない。原料米は輸送ができる。風土を活かすためにはもっと「水」を活かしていかないといけないんじゃないかと思います。」
そのように竹鶴さんは語り、竹原という歴史と風土を活かした酒造りによって竹原を伝えていきたいという想いを非常に感じることができました。
「お酒を飲むことが楽しいと思ってもらわないといけないですよね」
高校生から「どの年代層に日本酒は人気で、売上が高いのはいつ?」という質問が挙がりました。
「よくご購入いただける年齢層は50代の方で、売上が高い時期は12月。これは数十年変わっていません。」と竹鶴さんは語る。
「日本酒は温めて飲まれることが多いお酒です。夏でも燗で飲む方ももちろんいらっしゃいますが、寒い時期には好まれる。忘年会やお歳暮もあるので、12月に売上が高いのは何十年も変わらないですね。ただ美味しいだけでは買ってもらえませんよね。」
若い世代に向けて、日本酒業界はまだまだアプローチ不足だと続ける。
「若い方々は今、お酒を飲まない人たちが増えているといいます。私はお酒は一つの娯楽だと思ってるんですが、スマートフォンでゲームをするのも、日本酒を飲むのも同じ娯楽です。娯楽にはお金がかかります。今の若い方々にはゲームをすることが楽しいと思うように、お酒を飲む事が楽しいと思ってもらわないといけない。日本酒業界はまだまだその点において努力不足で反省すべきところだと思っています」
日本酒を一つの娯楽として、ゲームと重ね合わせる竹鶴さんの考えは、時代の変化に対して革新と挑戦をしていく酒造りにもつながります。
竹鶴酒造のお酒の特徴の一つとして「酸味」がある。本来、日本酒における酸味はタブー視されて来たものだという。酒造りの技術がまだ未熟だった時代、酒造りの過程で腐ってしまう事があった。腐ってしまうと酸味が出る。技術が低いから酸味が出る。という日本酒の考え方が古くからあったという。
日本人は元々、魚介中心の食生活で、魚介を美味しくするために日本酒の酸味は必要ないものでしたが、日本人の食生活が変化し、肉を食べる食生活は一般化しました。肉を美味しくするためには脂分を中和する酸味が必要、という考えのもと、タブー視されてきた日本酒の「酸味」に着目し、今の日本人の味覚に合わせた酒造りを行ってきたというのです。
そのほかにも竹鶴酒造は「濁り酒のお燗」という新しい飲み方の提案や、現在では廃れてしまった製法を復活させる取り組みなどの伝統と革新を続けています。
「伝統産業だから、とか昔はこうだった、とかばかり言っていると日本酒産業は無くなってしまうと思うんです」と竹鶴さんは危機感をあらわにします。
長い伝統を持つ竹鶴酒造が、お酒を飲むことを楽しいと思ってもらう為に、時代のニーズに合わせた革新と挑戦をしていく姿は私たちの心を強く打ちました。
「竹鶴酒造の考える持続可能な社会とは」
昨今、サステナブルな思想が当たり前になる中で、環境、社会、ガバナンスに関する事項、いわゆる企業としての時代に対する「姿勢」が消費者にも重要視される世の中になりました。この点では、竹鶴酒造は以前から農薬削減を目標に無農薬米を用いた酒造りに取り組んでいることなどもあり、竹鶴さんに質問をしていきます。
「鮎やウナギが取れない、という事をよく耳にするが、餌になる虫がいないんだから当たり前ですよね。農薬使って虫がいなくなってしまった。餌が無いんだからいくら稚魚を放流しても無駄だと思うんです。農薬をまきすぎてミツバチがいなくなってしまい、果物ができなくなってしまった、という話も聞きます。」
「一方で、世界は人口が増加していく。人口を維持していくのであれば農薬無しでは人間の食糧が確保できません。農薬を減らせというのは簡単ですが、その先の具体的な答えを持っていかないといけない。非常に難しい課題だと思っています。」
そう竹鶴さんは語ります。「昆虫カタストロフィー」と言われる生態系の変化です。
酒造りにおける農薬削減というミクロな視点と、世界的な食料問題というマクロな視点を広げていく竹鶴さんは、日本酒を通じて竹原を伝えていきながら、多角的な視点で持続可能な社会を作っていくために取り組みを続けています。
取材を終えて
取材を終えて、最後に高校生達と先生方に取材の感想を質問しました。
高校生たちは課外授業をする上で、「日本酒は難しそう」「おじさんが飲むもの」程度の認識しかなかったが、今回の取材で日本酒の魅力はもちろん、どのように環境を考え、どのような努力、背景があって日本酒が創られているのかが分かり、学校で学ぶSDGsとのつながりも感じたという。
取材に同席した先生は「古くからあるものをどうやって変えていくか、という課題は教育業界も同じで、共通項を感じました。」と語ります。
「一見、高校生たちからすると日本酒は自分と関係のない物に見えると思います。自分と関係のない物を学ぼうとする事は難しいことです。生活をしていてスマホゲームと日本酒は思考として交わりにくい。今回の取材で色々なことがつながっていることがわかり、SDGsの視点もしかりで新しい視点。知識転換、全く違うものに見えるものが実は共通項があるということが、生徒たちに分かってもらえたんではないかと思います。」
と先生は語ります。
映画スパゲティコード・ラブが紡いだ次の世代との対話。長い伝統をもちながらも柔軟に革新を続けていく竹鶴酒造は、次の世代へ日本酒を通じて竹原を伝えながら、よりよい社会を目指して今日も酒造りを行います。
酒蔵紹介
竹鶴酒造のお酒をはじめ、 映画スパゲティコード・ラブに協賛したお酒は以下の飲食店でお召し上がりいただけます。
※在庫が無くなり次第終了とさせていただきます。※一部店舗は臨時休業または営業時間が異なる場合がございます。飲食店紹介
- 地酒やもっと東京都豊島区南大塚2-44-203-3946-6008
- 奈種彩千葉県千葉市中央区中央3-13-15043-223-6230
- くらのすけ東京都中央区銀座6-3-12 3F03-3574-7300
- リバーサイドヤオヤ東京都目黒区東山3-1-3 1F03-5708-5613
- 焼鳥やおや東京都目黒区大橋1-3-603-6712-7719
- 美酒美燗煮りん千葉県船橋市本町1-14-9047-401-1480
- ゆる燗酒場煮りん千葉県船橋市本町2-28-25047-434-3160
- 心斎橋わっか大阪府大阪市中央区心斎橋筋1-3-10050-5485-7044
- 炭焼尚店大阪府八尾市北本町1-3-2072-998-5080
- 酒場カミチョウ広島県広島市中区八丁堀6–7 チュリス八丁堀1F080-0826-1822
- かんすけ福岡県福岡市中央区高砂1-18-1092-522-3710
- 空気椅子酒場輝福岡県福岡市中央区渡辺通2-3-1 三角市場内090-3194-5981
- 酒場おっとん福岡県福岡市中央区平尾2-14-19092-791-3423