連載第10回 有名料理人が語る料理と日本酒

4年待ち!!超予約困難な鮨の名店『三谷』三谷氏が選ぶ日本酒5選

更新日2021年10月22日

この記事をシェアする

SharePosts
特集画像1

「魂を伝えるのが私の仕事。だからこそ、食材もお酒も道具もいい加減に扱うことはできない」というのが『鮨三谷』店主・三谷康彦さんの信条。魂が宿るよいものを扱い、新しいものを生み出すためにどうあるべきなのかを考え続け、食材やお酒の探求から、器使い、店の設えまで常に変化しながら新たな歴史を刻み続けている三谷さん。 同業者からの人望も厚いのは、やはり日本においてはフランス料理店にも先駆けた10年以上前に、ワインや日本酒とのマリアージュを提案して一世を風靡したからだろう。今なお新たな味の融合と創造を目指し、日本とフランスのトップクラスのお酒と日本最高峰の食材で夢のようなマリアージュを次々に生み出している。 連載第10回では、三谷さんに少しでも近づくためにはどうすればよいのか、ヒントを伺った。

特集画像2

私は15歳で日本の伝統文化である鮨職人の世界に入りました。鮨は日本が誇る伝統の食文化と思っていましたが、仕事をし続けていくなかで、ただ伝統を守っていくだけでは文化は続かないという危機感を感じるようになりました。歴史が好きだったこともあり気がついたのですが、時代が進化しているのは、それは変化し続けているからです。よりよいものを目指して変化していくからこそ続いていく。逆に変化がなければどんなによいものも、ひとときの輝きとして歴史に名は残せたとしても廃れていく。鮨職人の仕事も鮨だけでは限界がある。よい文化として継承していくには変わっていかなければ…、と考えたひとつがつまみや握りとお酒のマリアージュだったのです。

特集画像3

そういったことを考えていた10数年前、ご縁があってフランス・ブルゴーニュのワイン生産者を訪ね、勉強をさせていただく機会に恵まれました。生産者の思いを聞き、歴史や土壌、ブドウについて学ぶうちに、鮨と共通するものが見えてきました。お酒はもちろん自分が扱う食材もつくり手を知り、歴史や気候、地形など背景を学び、知識を得ることができればペアリングは難しくありません。共通点の中に必ずヒントがあるからです。人と人を繋げるのと同じ感覚で、この二人を会わせたら「欠点を補いあえる」とか、「もっと楽しくなる」、「似た者同士だから仲良くなれる」など思いつくはずです。 ペアリングは、マイナス要素がでなければよい、味わいの足りないところに補えばよいという考えですが、私の場合、ペアリングを超えたマリアージュ、新しい融合と味の創造というゴールを目指しています。そうなると「人」選びも大変重要です。大切な人のために「愛」をもってつくって(獲って)いるかどうか、厳選に厳選を重ねていくわけです。日本酒の場合、十四代の蔵元高木酒造の髙木 顕統さんとご縁があり、現在はほぼ十四代のみを使わせていただいています。もちろん他にも良いお酒はありますが、人柄や人生、考え方を深く知ったうえで提供したいと思うとなかなか手は広げられないものです。

特集画像4

私たち飲食店で働く者は、食材やお酒に宿る魂を繋いでいく歯車の中にいるだけです。繋げてもらったら、次へ繋ぐ。ですから、お客様にお出しする時も説明だけに終わらず、物語を伝えるようにしています。とはいえ、マリアージュも一つの提案で、お店では食べる人が主役です。お客様の様子を見ながら押し付けにならないようにしなければなりません。また、提供温度で味わいが変わってしまうので、飲み切る量でお出しするようにするなど、細かい心配り、目配りも忘れてはいけないと思います。

× 十四代 龍泉 白雲去来

鮪、特に脂の多い中トロ、大トロの場合、脂の中に含む甘味を綺麗に引き出してくれるまろやかな旨味のあるお酒を合わせます。鮪の厚みも重要で、合わせるお酒の味わいの厚みに比例するように鮪を切りつけます。口の中で脂分・甘み・酸の3つのトライアングルが完成するように考えると、ペアリングを超えマリアージュに近づくことができるからです。私の場合十四代の精髄を感じる「十四代 龍泉 白雲去来」と合わせました。斗瓶囲い氷温熟成で、十四代特有の透明感が秀逸。中に溶け込んだ美しい酸の余韻がとても爽やかで、すべての味わいが丸の中に収まっている印象です。まろやかで、バニラのようなとろみと旨味が極上の鮪の脂の甘みを引き出し美しい味わいに。他のお酒で合わせると苦味が出てくるのですが、それが現れない完璧なマリアージュです。

高木酒造株式会社|山形県
この日本酒詳細を見る

蒸し鮑 × 十四代 中取り純吟 播州山田錦

「本日は蒸し鮑を海に戻したようなマリアージュで召し上がっていただきます」とお出しする組み合わせです。「十四代 中取り純吟 播州山田錦」は、立ち香、含み香ともに土壌のミネラル分からくるメロンのような上品な香りが特徴です。この香りが生の貝ととても合います。ひと口飲んで、口の中に香りがあるうちに鮑を噛むと、磯の香りがふわっとあがり、蒸し鮑でも生き生きとした香りが蘇り、海のイメージが広がっていくのです。

高木酒造株式会社|山形県
この日本酒詳細を見る

キャビア × 十四代 龍月

ノンシュガー、ビターチョコレートの香りが出てくるマリアージュです。一口飲んで、キャビアを口に入れると、口の中で味わいや香りが膨らみ、さらにそこで「十四代 龍月」を口に含むと広がったものがしゅーっと元に戻って最後にビターチョコレートになるのです。味わいの形としては菱形です。この最後の苦味は、ネガティブなものではなく、食欲を刺激する良いフレーバー。次の料理に繋げてくれます。提供温度は1℃〜2℃で。

高木酒造株式会社|山形県
この日本酒詳細を見る

焼穴子 × 十四代 双虹

旬の穴子は白身がとても繊細です。醤油を塗って焼き穴子にすると、噛んだ時に綺麗な脂がジュワッと染み出てきます。そこに合わせたいのは魚の味わいを邪魔せず、繊細な白身にスーッと届くような綺麗なお酒です。十四代なら、山田錦を35%まで磨き上げ綺麗に醸された「十四代 双虹」を。深みというよりも美しさが際立っているお酒です。穴子だけでなく、繊細な白身の刺身や焼き魚にも合います。こういう綺麗なお酒は、煮込みや光り物などに合わせると雑味や臭みが出てしまいます。

高木酒造株式会社|山形県
この日本酒詳細を見る

握り全般 × 而今 純米吟醸 雄町 火入れ

すし飯はどうしてもお米の甘みよりも酢の酸の方が立ってしまいます。そこで、米の甘みを引き立てるような日本酒を合わせるとより美味しく握りを食べることができます。雄町はとてもふくよかでまろやかな旨味を出してくれる酒米です。特に而今の純米吟醸は、十四代にかなり近い造りで、重くなりすぎず、エレガントで穏やかな旨味、そして美しい酸の調和が素晴らしいと感じています。すし飯を美味しくしてくれるのはもちろん、キンメ、イサキ、赤ムツなど少し脂のある白身だけでなく、青魚にも合うなど優れものです。ただ、蟹は愛山の方が合うようです。愛山はお米の味が柔らかく溶け込んでいるので、蟹の風味に寄り添うのです。

木屋正酒造株式会社|三重県
この日本酒詳細を見る
まとめ1

三谷さんが扱うのは食材もお酒も道具も最高峰のものばかり。すべては今まで積み重ねてきた努力の結果だ。「美味しいのは当たり前。美味しいもので理を奏でるのが料理人。そして、伝統を残すためには変わり続けていかなければならない」という思いを強く持ち、学びと研究を続けている三谷さん。「人それぞれ“いい縁”と感じる出会いがあります。そういう人たちと切磋琢磨することで自分もつくり手も進化し続けることができるし、学び続けるうちにまた新たな縁が生まれる」という。漁師、農家、醸造家、陶芸家……、「自分をハブにして、そういった人々の真の思いを汲み取り繋げていくのが料理人の仕事」という三谷さん。重責を自覚した責任感と熱い想いがもてなしにもほとばしるからこそ、新たな感動が日々生まれるのだ。

レストラン写真

三谷

東京都新宿区四谷1-22-1☎03-5366-013218:00〜22:00 休月曜・火曜席カウンター6席 ※紹介制https://tabelog.com/tokyo/A1309/A130902/13042204/
取材・文・撮影:藤田実子
日本酒をより楽しめるアプリSakenomyを今すぐダウンロード!
日本酒をより楽しめるアプリSakenomyを今すぐダウンロード!
TOP