連載第7回 有名料理人が語る料理と日本酒

和洋の創作鰻料理が味わえる名店 うなぎ時任 時任氏が選ぶ日本酒5選

更新日2021.09.10

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世界初、“鰻フレンチ割烹”として国内外から注目を集めている『うなぎ時任』。 店主・時任恵司さんは、子どもの頃から蕎麦、焼き鳥、鮨、鰻、日本料理など伝統のある日本料理の仕事に関わりたいと思っていたという。 そして、「スタートが早ければゴールにも早く近づける」と、中学1年生の夏休みに鰻職人を目指すことを決断して名店『麻布 野田岩』の面接へ。16歳で弟子入りを果たした。

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強い目的意識と意志の持ち主である時任さんは、『野田岩』パリ店で店長を務めたのち、フランスやイタリアの食文化も学び、30歳で独立。 カウンターでは、活きた鰻を捌くところから、串打ち、炭火焼まで一連の職人技を披露。 そして、日本と西洋、伝統と創作を組み込んだコース仕立てで鰻料理店の新境地を切り拓いている。 お酒も、ワイン、日本酒も和洋の垣根を超え、どちらにも合うものを選んでいるそうだ。連載7回目では、料理との相性の基本は抑えつつ、自分が気に入ったお酒の中にストーリーを見つけ、美しい酒器と共に付加価値を高めて提供するという時任さんに話を伺った。

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私の店は、日本の食文化と西洋の文化の融合から新しい文化を生み出すことをテーマにしています。ですから、お酒は、日本酒もワインも揃えています。 ワインはある程度幅広く取り揃えてセラーで寝かせていますが、日本酒に関しては、コンディションのことを考えると種類豊富なだけがサービスではないと考えています。キレのいい辛口タイプ、食中酒としてバランスの良いタイプ、万人受けする飲みやすいタイプ、芳醇で厚みのあるタイプ、お燗に適したタイプ、外国人の方が喜ばれるブランド、小さな蔵や造りが少ない希少酒、季節酒など、定番とその時々のスポット酒をそれぞれ4〜5種類に留めて品質管理をしています。 そして、ペアリングというよりも、お客様の好みを伺い、寄り添うようなお酒をおすすめしています。1品に1ドリンクと厳密に決め込んだペアリングがブームになっていますが、料理人が厳密なペアリングを考えるのは至難の技。しかも、あまりに決め込んでしまうと、かえって遊び心がなくなってしまうような気もしています。 ブームはやがて去るもの。その後もきちんと日本酒の良さを伝えるには、知識を積み上げておかないと次の動きがとれなくなってしまいます。

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私は、切子や骨董など日本伝統の美しい酒器でご提供していますが、味わいの違いを提案できる酒器のことなども今後勉強していきたいと思っています。 ペアリングまでいかなくとも、お客様の好みに寄り添える提案、酒器なども含め、トータルコーディネイトで付加価値を高めることも日本酒の普及のために大切なことだと考えています。

鰻巻き(前菜料理全般) × 戦勝政宗 -特別純米-

いろいろな味を盛り込む八寸ほか、鰻巻き、鰻バーガーなどコース前半の料理には、すっきりと味を切るタイプがいいなと思って探していました。そして出合ったのが「戦勝政宗」。ラベルを見てピンときたんです。飲んでみるとイメージ通り、甘さは少なく、キレがとても良いので口の中をリフレッシュして次の料理に繋げてくれます。お客様には、「ジャケ買いしたんです。シャキーンと音が聞こえてきそうなくらいキレがいいですよ!」と紹介するととても興味を持ってもらえます。このように、ただお酒の説明をするのではなく、自分の体験を言葉にできる定番を持っておくとよいと思います。

仙台伊澤家 勝山酒造株式会社|宮城県
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塩焼きほか食中全般 × 大那 超辛口純米

白身魚の塩焼きには、米のふっくらとした旨味を感じるお酒がぴったりきます。ラベルに超辛口とあるこの「大那」を選んだ理由は、五百万石はもともと固いお米で味が出にくいとされているのですが、菊の里酒造が造るとふっくら米の旨みも出ているからです。酸味が効いているのでキレはよいのですが、旨味や甘味もあり、柔らかな飲み口。白身の焼魚だけでなく和洋問わずどんな料理にでも寄り添い引き立ててくれるので、食中酒としてオールマイティ。当店のチーズを使ったパスタなど洋風メニューでも違和感なく楽しんでいただいています。

菊の里酒造株式会社|栃木県
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食中全般 × 勢起 純米

「大那」同様、食中酒としてコースの中盤でおすすめしている「勢起(せき)」。「明鏡止水」でお馴染み、長野県の大澤酒造の限定流通ブランドです。長野県北信地区の木島平村でしか栽培されていない金紋錦を100%使用しています。この金紋錦というお米は、熟成により素晴らしい味わいを発揮するため、1年間低温熟成させているそうです。金紋錦は力強い酒米といわれていますが、お米ひと粒一粒が溶け込んだ厚みと繊細さが熟成により調和しているためとてもしなやかな口当たり。少量生産なので、いつも入手できるわけではありませんが、日本酒好きの方に満足していただけるよう、このような限定酒を用意しています。

大澤酒造株式会社|長野県
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鰻重 × 醸し人九平次 純米大吟醸 山田錦 EAU DU DESIR

スタミナ料理と言われる鰻には、「醸し人九平次」のようなエネルギーを感じる豊かなお酒が合います。苦味、旨味、甘味、酸味が織りなす厚み、そして、ビロードのような滑らかと、素晴らしいお酒です。とはいえ、前半、中盤で提供するには印象が強すぎて疲れてしまうので、終盤でおすすめするようにしています。特にコースの最後にお出しする鰻重とは相性抜群。山田錦という米の個性を存分に感じさせてくれる甘味と酸のバランスに加え、エレガントな香りも特徴ですが、味の濃い料理と合わせると花やスパイスのニュアンスが出てくるのです。

株式会社 萬乗醸造|愛知県
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鰻重 × 澤屋まつもと 守破離 五百万石 純米酒

「醸し人九平次」と同じく、酸味、旨味と良い苦味を感じるお酒ですが、鰻重を軽やかな印象で終わらせたいという方には「守破離 五百万石」をおすすめしています。このお酒は、無濾過の原酒を瓶燗火入れすることで、炭酸ガスがそのまま閉じ込められています。フレッシュで爽やかな柑橘の香りが広がり、日本酒をあまり飲まない方も、通の方も皆さん大好きなお酒。お米の味わいをしっかり感じることができますが、ガス感と綺麗な酸が鰻の脂をさっぱりと流してくれるので、鰻重と寄り添いながらも食後はすっきりとした余韻になるからです。

松本酒造株式会社|京都府
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まとめ1

時任さんは、一口飲んで、「これいいね」と感じた直感や第一印象を大切に日本酒選びをしているという。そして、その印象を経験や考え方と重ね、自分の中にあるストーリーを掘り起こし、興味を持ってもらえる言葉で提供できるよう策を練る。酒蔵を知るために情報も収集し、提供の仕方に間違いがないか、蔵元をリスペクトできているかどうかも検証。そして、定番を決めたら浮気をせず、さらに価値を高めるための勉強や工夫を怠らない。「店のブランド価値を上げてくれるブランド酒を扱って“これさえ出しておけば安心”ではつまらないですよね。店での提供の仕方次第で酒蔵の価値も上げることができます。酒蔵との切磋琢磨で日本酒自体の価値をもっと上げていける。飲食店の役割とはそういうものではないかと思います」と話す時任さんの力強い言葉は、日本酒業界の未来を明るく照らしてくれる。

レストラン写真

うなぎ時任

東京都港区麻布十番2-5-11 AZABUMAISON 201☎03-6812-967112:00〜14:00/18:00〜22:00(要予約) 日曜休み (※不定休あり) 席カウンター8席、カウンター個室1室(4〜6名)https://tokitou-unagi.jp/
取材・文・撮影:藤田実子
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