連載第12回 有名料理人が語る料理と日本酒

食通を虜にする 完全紹介制の隠れ名店 『虎ノ門 虓 (コウ)』佐藤氏が選ぶ日本酒5選

更新日2021年11月05日

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兵庫県・芦屋で完全紹介制の店を営んでいた佐藤慶さん。取材も受けずただひたすら良い食材を求め、手にした命に真摯に向かい合い、その個性を活かしきるための手法を考え抜く佐藤料理で食通たちを虜にしてきた。東京・銀座で新たにスタートをきったのは2017年のこと。6席の小さな店とはいえ、3ヶ月足らずで予約至難の店に。そして2019年、厨房も客席も拡充した新店舗に移転。完全紹介制ながらも『虓』を知らずして食通は語れないと言われるまでになっている。

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佐藤さんの料理は、見た目は極めてシンプル。皿の上に余計なものは一切ない。「映える料理ではないんです」と申し訳なさそうに話し、「塩をして焼いただけ」「水で煮詰めただけ」など、「〜しただけです」と説明する佐藤さん。しかしその言葉の奥には、特別な自然環境のなかで育まれた素材本来の味を感じてほしいという気持ちが秘められている。多くを語らないが、目指しているのは体の底から「美味しい」という感覚がこみ上げてくる本能を揺さぶる味なのだ。

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この上なく丁寧に引いたフォンでソースを作り、バターも牧場から届く生クリームを振って毎日出来立てで提供するなど手間暇を挙げたらきりがない。また、炭火焼にする食材に塗るソースに、白バルサミコ酢を煮詰めたものを使ったり、海老などを煮詰めて香り、甘み、旨味を出したソースを使ったり、素材に合わせて独自に工夫。食事も調理法もジャンルレスだが、記憶の中に残る懐かしい味、あるいは本能が求めている手が届くようで届かないところにある美味しさを追求しているのが佐藤料理の最大の魅力だ。連載第12回では、素材の本質に迫る料理にどのような考え方でお酒を合わせていくのかを伺った。

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店を開いてから、ワイン中心のサービスをしていました。日本酒を本格的にサービスするようになったのは、ここ虎ノ門に移転してからです。バックヤードが広くなり、マイナス5℃で保存できる日本酒専用のセラーが置けるようになったからです。日本酒はボトルで飲み切るというようなお客様はいないので、抜栓しても良い状態で2〜3日保存できる環境がないと提供は難しいと感じていましたから。セレクトの基準は、透明感がありながら旨み、奥行きがあり、最後は水のようにスーッと消えていく飲み飽きしないタイプ。試飲をしたとき、あまり考えすぎると分からなくなってしまうので、ラベルや味わいの印象が残ったものは、蔵のある風土、米の特徴、蔵人の考え方などをあとで調べて検討し、細・太・軽やか・どっしり・ヴィンテージなど特徴の違うものを揃えるようにしています。 お酒の提供は、基本的にはお客様が飲みたいお酒を優先した方が楽しんでいただけるのではないかと思っているので、お好みを聞きながらお出ししています。もちろん、「お任せする」と言われればペアリングの提案もしますが、その場合も押し付けにならないよう料理の相性を踏まえた上で、やはり飲む方のお好みに沿うような選び方を心掛けています。

海鰻の炭火焼 × 龍勢 和みの辛口 特別純米

鰻は、海で生まれて川で育つものがほとんどですが、海鰻は川に遡上せず海にそのまま残った希少な存在です。エビやカニなどを食べているので藻やカエルなどを餌にしている川魚とは風味が違い、昔から別格の味と言われてきました。脂がのっていて力強い印象ですが、身質は繊細で柔らかくピュアな味わいなので、美しい甘みと酸味のある白バルサミコを塗りながら炭火焼にしています。 合わせるのは、「龍勢 和みの辛口 特別純米」。キレの良い辛口ではありますが、口に入れた時に麹の良い香り、米のような味わいなどふくよかな旨みが舌の横から入ってきて鰻に寄り添ってくれます。それでいて喉を通り抜けたあとは美しい酸が綺麗にリセット。まさに「和みの辛口」という表現がぴったりの飲み心地です。

藤井酒造株式会社|広島県
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帆立の出汁巻き卵 帆立の葛あん × AKABU 純米大吟醸 極上ノ斬

生きている生物からでる旨みと卵の旨みを合わせた帆立の出汁巻。生の帆立から引いた出汁なので、鰹や昆布など乾物を使った出汁巻とは違う、艶やかな香りと味わいになります。「AKABU 純米大吟醸 極上ノ斬」は、この出汁巻のような生き生きとした食材の旨みを受け止める芳醇な味わいを持ちながらも、わざとらしさを感じないナチュラルなところが気に入っています。使われている酒米「結の香」の特徴、繊細で澄んだ旨みがうまく引き出されているのでしょう。とろりとした甘みのあと、スダチのようなキリッとした酸でスパッと切って次の料理につなげてくれます。

赤武酒造株式会社|岩手県
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愛媛県岩松川の天然小鮎 炭火焼 × 七本鎗 山廃純米 琥刻 2017年

私の故郷愛媛の岩松川から届く小鮎に、手長海老を白ワインで煮詰めたソースを塗って炭火で焼き上げています。芳ばしい香りに甘酸っぱさが潜む皮目を感じながら噛むと、ふっくら柔らかい食感と鮎の香りがふわっと上がり、肝の苦味がじんわりときます。この鮎のすべての要素をしっかり捉えてふくらませてくれるのが、蔵付き酵母による山廃仕込みのヴィンテージ純米酒「七本鎗 山廃純米 琥刻 2017年」です。 天然の乳酸菌の働きをじっくりと待って仕込む古式製法で、おおらか、ふくよかな味わいに、コクや深みが加わり、しっかりとした輪郭を感じさせてくれるので、後味は辛口のようなキリッとしています。ほんのりキャラメルのような甘みを伴った苦味が鮎の苦味と相乗。ただ日本酒のヴィンテージは、ワインよりも酸化が早いので、−5℃のセラーを導入したことで扱えるようになりました。一気に空気に触れる口が広めのグラスを使い10分程度で飲みきれる量を注ぐと変化を楽しみつつ最後まで良い状態で飲めると思います。

冨田酒造有限会社|滋賀県
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刺身 × 蓬莱鶴 純米吟醸 奏 harmony

お刺身には、米の感じが残っている“地酒”との相性が良いなと感じています。磨き過ぎず、あえて雑味を残して舌の上に引っかかるような風味を持たせているお酒は、魚の香り、旨みを支えて口の中で開かせてくれる一つの調味料的な役割を担ってくれるのです。 「蓬莱鶴」を造っているは広島市内の中心部にただ一つ残る酒蔵です。江戸時代から続く小さな造り酒屋で、今はマンションに建て替え、その地下で6代目の原純さんが、“本来の地酒”にこだわり、仕込み水も酒米も地元のものを使って、酵母や麹造りから一人で酒造りをしています。八反錦は広島県で開発された酒米です。「龍勢 和みの辛口 特別純米」も八反錦を使っていますが、作り手の色が如実に出るお米ではないかと思います。ぜひ「蓬莱鶴 純米吟醸 奏 harmony」と飲み比べてみてください。

株式会社原本店|広島県
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肉料理 × NOTO 純米大吟醸 2021 無濾過生原酒

赤身の塊肉や脂ののった鰯、とうもろこし、じゃがいもなどをワイルドに炭火で焼くザクザクっとしたイメージで作る料理に合わせたいのがこのパワフルな1本。なかなか自分で知り得ない地方の酒蔵にフォーカスしている日本酒応援団から紹介された数馬酒造の「NOTO 純米大吟醸 2021 無濾過生原酒」です。能登の山奥のまろやかな軟水、能登で栽培された五百万石を使い、テロワールをありのままに楽しめる無濾過生原酒。ジューシー、濃醇な旨味、かつ大胆なキレはいい意味で荒くてマッチョな印象ですが強いだけでなく奥行きもあって味わいは深い。人肌くらいの燗酒で提供するのがお薦めです。

数馬酒造株式会社|石川県
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まとめ1

考えずとも本能で「美味しい」と思えることを大切にしている佐藤さん。シンプルで潔い料理だが、香りや味わいの中に背景にある自然を感じることができ、美味しさの新たな扉を開いてくれる。そこに寄り添う日本酒として選ばれているのは、やはり、醸された土地の風土、米の味わい、造り手の人柄が現れたもの。「日本酒はワイン以上に繊細です。個性をきちんと味わってもらうために温度管理を徹底して保管し、良い状態でサービスしたいと」と話す。また、「相性を考えた基本のペアリングはあるけれど、もっと重要なのは、お客様の飲み方に合わせてサービスすることだと感じています」とも。極上の素材、お酒を扱っている佐藤さんだが、エゴに走らず、素材を育む自然への感謝、生産者や造り手への思いを客に届ける使命感の強さに感銘を受ける。

虎ノ門 虓

住所:非公開TEL:非公開
取材・文:藤田実子 写真提供:鈴木拓也、藤田実子
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