連載第15回 有名料理人が語る料理と日本酒

酒好きを心酔させる名酒場『件』川辺氏が選ぶ日本酒5選 

更新日2021年12月17日

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飲食店のプロが料理と日本酒の合わせ方のコツを提案する連載第15回は、酒好きで知らなければ「もぐり」と言われるほどの知名度を誇る名酒場『件』が登場。新旧の酒場が軒を連ねる学芸大学に店を構えて今年で18年目。酒場の本質とは「毎日、通っても飽きないこと」という店主の川辺輝明さんが惚れ込む日本酒と、ペアリングの妙を楽しむ秘訣を教えてもらった。

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学芸大学駅から徒歩数分の路地に佇む『件』は、酒場好きにはつとに知られた存在。地元客はもちろん、コアな日本酒好きを魅了し、18年目を迎えた今も変わらぬ人気ぶりを見せている。 “東京酒場のアニキ格”として若手の蔵元や同業者からも慕われる店主の川辺さんが日本酒の魅力に開眼したのは22年前のこと。「もともと日本酒は好きでしたけれど、出羽桜の吟醸酒を飲んだときにこんなに旨い酒があるのかと感動したんです。とことんハマるタイプなので、とにかくいろいろな日本酒を飲みました」。 当時は飲食店や酒販店に冷蔵庫が導入され、流通網も格段に発達したことから日本酒人気が高まっていた。そのブームを牽引した三軒茶屋『赤鬼』で働いたことも「自分で始めるなら日本酒を軸にした店を」という思いに拍車をかけた。

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「初めて蔵に見学に行かせていただいたのは川西屋酒造店です。もともと「食べ物との一体感」を信条とされている丹沢山は好きなお酒だったのですが、実際に醸造の現場を見せてもらって、人間の手でこんなに旨いお酒が作られているんだということがすごく不思議で神秘的なことに感じたんです。米や水は自然の力があってのものだけど、そこに人間の知恵と技能が加わり旨い酒ができる。土地の特性や造り手によってまったく個性が違うお酒ができるなんて、すごくドラマティックですよね。実際に蔵に行ってみると、あぁ、この場所でつくられているお酒だなと感じるんです。豊かな自然の営みやそこで生きているひとたちの温かさ、たくましさがそのままお酒の個性に繫がっている。日本酒を扱わせていただく立場として、どんなところで造られているお酒なのかを知ることはとても大切だと思いますし、知ることで愛着もより深くなります。食材も同じだと思うので、僕は手をかけすぎずに丁寧に料理をすることだけ心がけています」

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現在は3,800円のおまかせコースのみを提供しているが、身体にすっと染み入るような出汁から始まり、5~8品を盛り合わせた前菜に鮮魚のお造り、選べる主菜のなかには名物のおでんも。「季節によって鰹や昆布の量を変えている出汁と一緒に日本酒を楽しんでもらいたいです。家族ぐるみでお付き合いをさせていただいている蔵元さんにオリジナルで作っていただいているお酒もあるので、好みのタイプをお伺いしながら、お料理に寄り添うお酒をご提案できたら嬉しいです」

柿の白和え 炙りいちじく 生ベーコン × 而今 純米吟醸 愛山 火入れ

「果物を使った先付けには、同じニュアンスを持ったフルーティーなお酒を。ふくよかさとキレを併せ持った「而今 純米吟醸 愛山 火入れ」は、口に含んだときにふわりと広がる上品な甘みが特徴的。メロンのようなジューシーさがあり、和食はもちろん、イタリアンや中華の冷前菜にも合うと思います。今回は炙りいちじくのスモーキーさに合わせて生ベーコンを使いましたが、料理に塩味の要素を少し加えることで、緻密に計算された旨味と甘みのバランス感がより際立つお酒です」

木屋正酒造合資会社|三重県
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おでん × 喜久醉 特別純米

「件の名物とお客様に言っていただくことも多いおでんは、みりんを使わずに鰹と昆布の出汁に塩、うす口醤油、コク出しのための砂糖で透明感のある味わいに仕上げています。みりんを使わない理由をよく聞かれるんですが、単純に“みりん味”になってしまうのが嫌なんです。いまは定番の大根や卵のほかに、はんぺん、つみれなどさまざまな具材をひと盛りにしてご提供していて「喜久醉 特別純米」との組み合わせはこれ以上ないほど沁みます(笑)。静岡のお酒らしい健全さがあり、芯の強さとスマートさを備えているのは、きめ細やかな酒質になると言われる速醸ならでは。常温でもすっすっと飲めるお酒ですが、60度くらいまで温めてお出しするので、おでんの出汁とともにゆっくり楽しんでいただきたいです。自家製の辛子味噌をおでんにつけると、やわらかな酸がプラスされるので、お酒もさらに進むと思います」

青島酒造株式会社|静岡県
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かんぱちのへしこ焼き × 純米酒るみ子の酒 6号酵母

「ぬか床に漬け込んだかんぱちと福井のへしこを合わせて旨味を重ねた酒肴は、福井の鯖へしこにヒントをもらい、「件」流にカンパチを糠漬けにして焼いた一品です。へしこはそのままでもおいしいですが、酒場の料理として、もっとお酒が進むようにひと工夫。6号酵母を使った「純米酒るみ子の酒」は、香りも穏やかで口当たりもとてもまろやか。料理の塩味をマイルドに包み込んでくれるので、へしこや塩辛、このわたなどの珍味にもよく合います」

合名会社森喜酒造場|三重県
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本マグロのづけ × 田酒 純米吟醸 山廃

「赤身の味が濃い本マグロは、千葉県産の青唐辛子を漬け込んだ醤油のヅケでお出ししています。味が強い食べ物にはいわゆる強い酒を合わせるのもいいですが「田酒」の純米吟醸山廃は、米の旨みがしっかりあるのに飲み口がとてもきれいです。魚であれば、たいていの日本酒が合うと思いがちですが、魚介にも味の濃淡があるので、そこにポイントを置いてお酒を選ぶとすごくしっくりきます。すっきりタイプの純米大吟醸ではマグロの味だけが立ってしまい、お酒の存在感が薄くなってしまうことも。その点「田酒 純米吟醸 山廃」なら、豊かなコクと酸味のバランス感によって、無理なく相互関係が成り立つ感じがします。青唐辛子の爽快な辛さも美味しさを増幅させるポイントです」

株式会社西田酒造店|青森県
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ぬか漬け × 神亀 純米 ひやおろし

「自家製のぬか漬けには、もうこれしか考えられないという「神亀 純米 ひやおろし」を。熟成味がおだやかで、ゆるゆる呑みたい自分の中の王道酒。なにより、角がとれたまろやかな旨みの中に自然な“ぬか感”があるので、お酒と漬物のリンクの仕方が心地よいです。これだけでずっと呑んでいられるという常連さんもいるくらい。米の旨みがたっぷりとのっていて、お燗にしてもなおよしという蔵の価値観に同感。日本人がDNAレベルで旨いと感じる組み合わせだと思います」

神亀酒造株式会社|埼玉県
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まとめ1

「ぬか漬けと「神亀 純米 ひやおろし」のように同じ方向をむいた料理と日本酒は合わせやすいと思います。たとえば、とんかつを塩で食べたときにちょっとレモンを絞りたくなる感覚があると思うんですけれど、その料理に足りない要素を日本酒で加えるというのも面白いです。揚げ物には酸のあるお酒を合わせてみようとか、タレの焼肉にはキレ味のあるタイプがいいかなとか、料理と同じでいろいろ試してみるのは楽しい。それから、日本酒は飲む温度帯も大切ですね。出汁ものやスープにはお燗がばっちり合う。温度をあげると腰が折れてしまうお酒もあるんですが、僕が好きなのはちょっとやそっとでへこたれるお酒ではないので(笑)。日本酒はとてもデリケートですけれど、もっと気軽で身近なもの。飲食店は“生き物”なので、日々変わる部分はありますが、日本酒の大らかさを感じていただける酒場でありたいです。季節を問わず、いつでもしみじみと旨い日本酒をご用意してお待ちしております」

レストラン写真

東京都目黒区鷹番3-7-4 関口ビル 1F03-3794-6007[火~土] 17:00~24:00(L.O)  [日・祝] 17:00~23:00(L.O)休月曜日https://tabelog.com/tokyo/A1317/A131702/13025213/
取材・文・撮影:小寺慶子
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