連載第19回 有名料理人が語る料理と日本酒

食通を虜にする素材厳選の大人のモダン居酒屋 『酒井商会』酒井英彰氏が選ぶ日本酒5選

更新日2022年02月18日

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渋谷警察署の裏手、明治通りと246に挟まれた三角地帯の雑居ビルの2階で看板も掲げずに営業するモダン居酒屋『酒井商会』。2018年にオープンして間もなく感度の高い食通の間で話題になり、あっという話に予約困難店になった。2020年にはバーを併設した2店目『創和堂』もオープンさせるなど酒井氏の経営の手腕も注目を浴びている。 人気の理由は、古木を多用した郷愁感のある雰囲気にはじまり、和え物、お浸し、揚げ物、蒸し物などが目の前で次々に調理されるライブ感、その多種多彩なお惣菜的料理をつまみに自然派ワインや日本酒をあれこれ楽しめるなど挙げればきりがない。 しかしひと言に集約するなら、店主・酒井英彰氏のセンスということになるだろう。

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料理人としてのキャリアは、大学卒業後、毎日サーフィンをしながら生活したいとワーキングホリデーで3年ほど滞在したオーストラリアからスタートした。フランス料理店で皿洗いから入るもすぐに料理人に昇格。帰国後は、料理人として独立することを目標に、フレンチや創作料理店で経験を積み、最終的には自分でやるならこういうお店と、人気店『並木橋 なかむら』で3年ほど修業をして和食を学び独立した。

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『酒井商会』では、酒類は好きで飲んでいた自然派ワインを中心に取り揃えていたことが食に敏感な人たちのアンテナに触れるきっかけになった。和食で自然派ワインを充実させている店が少なかったからだ。また、日本酒は『竹鶴』『独楽蔵』『辨天娘』『玉櫻』など落ち着いた味わいの熟成酒が中心。こういったラインナップも酒井氏自身が好きなお酒だから、という理由だ。とはいえ料理や客の好みに合わせて冷から燗まで臨機応変に提供している。 料理もお酒も体に馴染む自然な味わいを好む酒井氏。食材は出身地である福岡をはじめ九州から無農薬や有機栽培の野菜、自然に育った鶏肉、雲仙ハムなど厳選。連載第19回では、美味しさだけでなく、自然環境、伝統文化などにも思いを巡らせ、新たな時代へと繋げようとしている酒井氏に自然酒や熟成酒の魅力を伺った。

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「すーっと体に馴染んでいくような自然派ワインが好きで、そういったお酒を中心に飲んでいました。日本酒も同じような飲み心地の良いものをと求めていたら熟成酒や燗酒にたどり着きました。自分が「いいな」と思ったものをお客様とも共有したい、作り手の思いを伝えたい、という気持ちが強いのだと思います。なので、日本酒もワインも焼酎もビールも造り手の顔が見えるようなクラフト感を大切にしています。 料理屋ですから、お酒単体で美味しいのではなく、料理と共に楽しめるというのも基本です。なので、香りが華やかなものよりも、穏やかに料理の味わいを広げてくれるものを、そして、蔵元の考えに共感できるとか、あまり知られていないけれど丁寧でいい仕事をされているなど、流行は全く意識せず、私やスタッフの好みで選んでいます。スタッフも皆私以上にお酒が好きで、まかないの時は色々と試飲しながら相性を確かめたり、理想の温度帯を探ったり、お客様の好みにより近づいたサービスができるようにディスカッションしています。また、店で扱っている日本酒は全て蔵元との交流があり、仕込みの手伝いに参加させていただくこともあります。 燗酒をあまり経験したことがないお客様には、一つのお酒が温度によって色々な味わいを楽しめるということもぜひ知っていただきたいですし、燗をつけるという日本酒ならではの文化も伝えていきたいですね。」

メヒカリと新蓮根の南蛮漬け × 独楽蔵 無農薬山田錦六十(特別純米)

酢、砂糖、醤油、唐辛子で作る南蛮酢に、身が柔らかく脂がのったメヒカリの唐揚げと香りの良い新レンコンやくわいなど季節の根菜を漬けた料理です。酸味、甘み、旨み、辛み、そして脂の要素もあり、どんなお酒にも合わせやすいつまみの定番。食感、食味は軽やかなので、熟成酒といってもやや軽めの「独楽蔵 無農薬山田錦六十(特別純米)」を選びました。『独楽蔵』は、熟成に適した設備を整え、基本的には新酒を出荷することはほとんどなく、3〜4年寝かせています。角が取れた穏やかな味わい、綺麗に熟成させているので大変飲みやすく、料理はもちろん体にも馴染んでいきます。軽やかながらも厚みのある落ち着いた味わいは、根菜の土のニュアンスにぴったり。また余韻の中に独特の苦味があり、それが魚の肝に合います。日本酒や熟成酒が苦手という人にもぜひ飲んでいただきたい1本です。

株式会社杜の蔵|福岡県
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柿と菊芋の白和え × Viridian ヴィリジアン -天鷲絨- 2020-

白和えといっても、具材を一緒に混ぜ合わせるのではなく、菊芋は素揚げに、カブの葉は出汁醤油でお浸しにし、柿と一緒に盛り合わせて豆腐を滑らかになるまで練り上げたクリーム状の白和え衣をトッピング。箸休め的な一品です。口の中で柿、菊芋、カブの葉のお浸し、そして白和え衣が混ざり合い、甘じょっぱい味わいがまろやかに広がります。ふくよかな味わいながらも軽やか、という共通のトーンで新政酒造の「ヴィリジアン」を合わせてみました。加水していない原酒のままですがアルコール分が13度と低く、甘酸っぱい口当たりで軽やかな印象。味わいだけでなく、造り手の姿勢にも共感できるお酒です。

新政酒造株式会社|秋田県
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猪肉とクレソンのぬた × 白隠正宗 少汲水純米酒

揚げた赤ねぎ、生のクレソン、薄切りにして出汁浸しにした猪肉を酢味噌で食べていただくぬた料理です。猪の滋味深い味わい、ぬたの味噌の風味など昔ながらの日本の味には、飲みやすく心地よい酒を造りたいというコンセプトのもと昔ながらの造りを復元した「白隠正宗 少汲水純米酒」が似合うと思いました。“少汲水”というのは、米の量に対して仕込み水に用いる水の量を標準よりも少なくして造ったという意味で、味は濃厚ですがアルコール分は14度と低めで、米のエキスの風味が心地よく、とてもまろやか。程よい酸味もあり、ふわっと口の中でふくらんでさっと消えるのですが、味わい、コクはしっかりあるので料理をしっかり支えてくれる万能感があります。常温でもよいですが、味のノリが良いので燗酒に最適です。

髙嶋酒造 株式会社|静岡県
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黒豚しゅうまい × 丹澤山 麗峰 阿波山田錦

しゅうまいは、イカ、桜えび、そしてこの黒豚シイタケなど季節によって具材は変わりますが、『酒井商会』の人気定番の一つです。蒸すことで食材の旨みが凝縮するので、旨みのしっかりとした日本酒と相性がぴったり。また、蒸し立てでお出しするので、燗酒でほっこりと合わせたくなります。そこで、1年以上熟成させた、川西屋酒造のフラッグシップ的な純米酒、「丹澤山 麗峰 阿波山田錦」を。燗にするとお米感がふわっと広がり、ご飯を食べているような甘みと旨みが感じられますが、最後は熟成酒ならではの落ち着いた酸がさらりと切ってくれます。60℃±5℃が良いと言われていますが、燗冷ましもまた美味。出汁の効いたお椀、茶碗蒸しにも合いますし、料理をさらに美味しくしてくれる理想的な燗酒です。

合資会社川西屋酒造店|神奈川県
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雲仙ハムカツ × とおの どぶろく・水もと 三年熟成

長崎の雲仙ハムを食べた時、「こんな美味いハムなかなかない!」と感動して生まれたメニューで、うちの定番人気メニューとなっています。とてもよい豚肉で作られているので、脂の香りを活かすように衣は極薄にしています。合わせたのは、無農薬・無肥料、自家栽培の米「遠野1号」を使い、天然の住み着き酵母と自然の乳酸菌を活かして造られたどぶろくです。これも最初に飲んだ時にどぶろくではありえない綺麗で優しい酸に感動。粘度があり、ストレートでは重たくなってしまうので、ソーダで割るのがお薦めです。良質の豚ならではの脂の甘み、旨みにほどよく相乗しながらキレのあるアルコール感が油をすっぱり切ってくれます。

株式会社 nondo|岩手県
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まとめ1

酒井さんが作る空間、料理、セレクトするお酒は、昔ながらの良いものを大切にしていきたい、健康はもちろん環境への配慮で未来に繋げるものづくりを応援したい、という思いを感じる。また、同じ志、趣向を持ったスタッフが集まっているため、日本酒をどのように提供していくのか皆で話し合う機会も多く、より良いサービスへと自ずと発展している様子も頼もしい。ワインの世界では“ソムリエ”という言葉が当たり前に使われているが、今後このような店で“酒番”という職種が確立すれば、日本酒業界にさらに拍車がかかり活性化していくだろう。古いものを古いままではなく、再構築して新たなスタイルを生み出す酒井氏。「温故知新」のセンスでこれからの飲食界をリードしていってくれる大きな存在になるに違いない。

レストラン写真

酒井商会

東京都渋谷区渋谷3-6-18荻津ビル2F☎070-4470-7621月曜〜金曜16:00〜LO22:00 土曜15:00〜LO21:00 日曜休み、不定休ありカウンター12席、テーブル8席https://sakai-shokai.jp
取材・文:藤田実子 写真:藤田実子、酒井商会
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