連載第12回 違いがわかる有名銘柄飲み比べ

酒造りの先駆者である高木酒造。時代に合わせ究極を表現した「十四代」11種を飲み比べてみた(後編)

更新日2022年04月13日

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山形県の山間部にある村山市で酒造りを行う高木酒造。豪雪地帯でもある村山市は雪解け水が豊富に採れ、長く寒い気候は十四代の綺麗で澄んだ味わいの吟醸酒造りには最適である。 14代目髙木辰五郎氏は酒の美味しさをより求めるために、酒造りに適した新しい米の品種改良を行い18年もの歳月を経て酒米「酒未来」「龍の落とし子」「羽州誉」の3種類を開発した。

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「酒未来」は山田錦の交配種で、酒質評価特A級の酒造好適米。高木酒造のみで使用されている「龍の落とし子」と兄弟系統で、やさしく上品な味わいのお酒に仕上がると言われている。 「羽州誉」は短稈で耐寒性にすぐれており、大粒の米で円盤状心白を備えている。キレのある酒質が特徴的だ。 自社で開発された酒米「酒未来」は高木酒造のみでなく「くどき上手」「東洋美人」「而今」などさまざまな銘柄で使用されるほどである。自社開発した米がさまざまな蔵で使用されることは珍しく、開発した酒米の質の良さを物語っている。高木酒造で開発した酒米のうち2種「酒未来」と「龍の落とし子」を使用したものや季節限定の生酒、そして鑑評会出品酒の計11種を飲み比べてみた。

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1. 十四代 酒未来大吟醸(純米醸造)

ラ・フランスやメロンのようなフレッシュな果実の香り。柑橘を思わせる爽やかな苦味と酒米「酒未来」の優しい旨味が調和し、スッキリとした余韻に導く。優しい旨味はクリームソースやチーズを中心とした乳製品に、果実の爽やかな香りは魚介系の塩味を引き立て相性が良い。

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2. 十四代 酒未来 純米吟醸

トロピカルフルーツやストロベリーのようなフレッシュで甘い果実の香り。しっかりした味わいだがキレが良く、酸味と渋みが酒の輪郭を作る。華やかでフルーティーな香りはイクラやキャビアの魚卵の塩気とフレッシュさを引き立てる。塩とレモンでシンプルに味付けした白身魚のグリルやフレッシュなチーズとの相性も良い。

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3. 十四代 龍の落とし子大極上生

洋梨やメロンのような豊かな甘みや花の洗練された爽やかな香り。上質な口当たりと、とろけるような味わいが深みとハーブのような苦味のアクセントをまとめ上げる。バランスの良い味わいはさまざまな料理に合わせて楽しむことができる。魚介のフリットやヒラメのグリルなどの白身魚料理と特に相性が良い。

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4. 十四代 龍の落とし子 大吟醸(純米醸造)

蜜を含んだ果実や白い花の柔らかくて甘い香り。シルキーな口当たりと甘みが特徴的。全体的に柔らかく、気軽に楽しめる1本。優しい甘みはホタテや白身魚の握りなど淡白な魚介の旨味と甘みを引き立てる。モッツァレラやリコッタ、フレッシュチーズや、シンプルなイタリア料理とも相性が良い。

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5. 十四代 龍の落とし子 純米吟醸

酒米「龍の落とし子」の特徴である穏やかな甘みと優しい旨みが感じられる。フレッシュな酸味がアクセントを加える。ややドライな後味がシャープな印象を持たせる。優しい甘さと爽やかな酸味は塩とレモンで味付けをした白身魚や鶏肉との相性が良い。後味のキレはイカゲソの唐揚げや天ぷら、南蛮漬けにもおすすめ。

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6. 十四代 別撰諸白 山田錦

ラ・フランスのような上品な香りの中に花の甘い爽やかな香り。温度が上がるにつれ、南国の果実の濃醇で甘い香りに変化する。長い余韻にほのかなミネラル感と山椒のような辛さがアクセントに。酸味と渋みがしっかりした旨味とのバランスを整えてくれる。しっかりした旨味は和牛の塩焼きや、アワビの蒸し煮などの豊かな味わいのものと一緒に。

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7. 十四代 槽垂れ原酒

フレッシュなハーブや果実の爽やかな香り、バランスの良い甘みと旨味が広がる。後味に残るかぼすの皮のような渋みがスッキリとまとめてくれる。飲みやすいが、製造から早め目に飲むのがベスト。爽やかな酸味はマスカルポーネやリコッタなどのフレッシュチーズ、湯葉や冷奴などシンプルな味わいの料理と相性が良い。また、焼肉や鍋と合わせると酸味がアクセントとして楽しめる。

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8. 十四代 おりからみ荒走り

"新酒おりがらみ"の特徴である、爽やかでふわっとした香りが特徴。軽やかで甘くフルーティーな味わいと米の旨味が感じられる1本。新酒の繊細でフレッシュな味わいと十四代の特徴である調和の取れたバランスが混じり合い、山椒のような辛さがドライな余韻を引き立てる。よく冷やしてシャンパングラスや白ワイングラスで楽しみたい。ピリッとした山椒のような辛さには、うなぎや揚げ茄子、揚げ出し豆腐と合わせるのが◎

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9. 十四代 角新純米

ソフトな口当たりとまろやかな甘みに、香ばしく凝縮した米の味わいを感じる。そこにキレのある酸味が加わることで柑橘の皮のような苦味が心地よく後味に残る。スッキリとしたバランスの良い味わいは幅広い層に好まれる。優しい甘み、苦味と辛味はエビやフレッシュチーズとの相性が良く、また季節の野菜などの甘みも引き立ててくれる。

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10. 十四代 角新本丸

絹のように滑らかな舌触りが心地よく、上品な甘みと米の味わいが優雅に膨らむ。米の芳醇な香りと旨味に、しっかりとした酸味が入ることで綺麗なバランスをとる。スパイシーな余韻が長く続き、飲みやすくさまざまなシーンに合わせられる。甘く芳醇な味わいは、鶏肉や卵を使った料理、香草や塩味の風味を引き立てる。

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11. 十四代 鑑評会出品酒

鑑評会出品用の酒。穏やかではあるが、濃醇で甘やかな果実の香り。甘みと濃厚な旨みのバランスが特徴的な1本。柑橘の皮を思わせる苦味が心地よく、酒に深みを与える。ワイングラスで豊かな香りと味わいの広がりを楽しむ。濃厚な味わいは甲殻類やイベリコ豚の生ハム、アンチョビなどの塩味の強い料理を引き立てる。

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まとめ1

高木酒造は時代の変化とともに新しい醸造法を追求し、日本酒業界に影響と衝撃を与え続ける。 醸造技術や味わいだけではなく、酒造りにおける「杜氏」制度においても画期的であった。蔵元が杜氏に酒造りを任せるのが一般的であったが、蔵元と杜氏が一体となった「蔵元杜氏」という考えが、髙木顕統氏の成功によって一般化された。 しかし、髙木氏は酒造りの先駆者でありながらも、杜氏と呼ばれることを謙虚に辞退してる。その事に対し髙木氏はこう述べている。「杜氏とは優れた感覚と技術を持ち、どんな状況にも対応できる専門家のことです。20年以上酒造りをしていると、その偉大さがわかってくるんです。私はまだまだ杜氏への道半ばです。」謙虚でありながらも常に新たな挑戦を続け、日本酒業界の先駆者として走り続けていることが高木酒造が尊敬を集めている理由なのだろう。 14代目の髙木辰五郎氏は、蔵人たちに先祖の教えを伝え、伝統を重んじ技術を磨き、創造性と感謝の気持ちを忘れないよう指導してきた。その思いは、井戸から湧き出る雪解け水、最高級の酒米、蔵の環境を生かした酒造りなどと共に脈々と継承されていくだろう。そして、15代目髙木顕統氏のリーダーシップのもと高木酒造の歴史はこれからも続いていくのである。

テイスティングコメント:ウイルソンライ レベッカ(Rebekah Wilson-Lye) 【ウイルソンライ レベッカ(Rebekah Wilson-Lye) プロフィール】 株式会社 JAPAN CRAFT SAKE COMPANY 海外PR・企画、輸出事業部長 SEC Certified Advanced Sake Professional WSET® Sake Level 3 Educator ニュージーランド出身の日本酒専門家。 2016年からIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)の日本酒部門の審査員を務め、企業や5つ星ホテル、世界有数のレストラン向けの日本酒コンサルタント、日本酒教育、世界市場向けのトレーサビリティーのあるマイナス5℃の日本酒輸出システムの開発などに携わり活動中。 ------ ■写真:書籍「に・ほ・ん・も・の」より(撮影:大森忠明) 書籍「に・ほ・ん・も・の」(KADOKAWA) 「わざ」「ごちそう」「おもてなし」「にほんしゅ」「おみやげ」をテーマに日本47都道府県から珠玉の53選を紹介した書籍。日本を代表する技と心、それを生み出す「人」に焦点をあてて紹介した書籍。高木酒造も紹介している。
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