連載第15回 違いがわかる有名銘柄飲み比べ

令和に誕生した「長州酒造」、今注目の女性杜氏が造る「天美」11本を飲み比べてみた

更新日2023年07月27日

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山口県下関市菊川町にある「長州酒造」は、創業140年以上の歴史を持ち、長年、地元銘柄「長門菊川」で親しまれてきた老舗酒造「児玉酒造」の事業を受け継ぎ、令和2年に新ブランド「天美(てんび)」を立ち上げた。 「長州酒造」の親会社は、山口県山陽小野田市に本社を構える太陽光発電システムなどを製造する機器メーカー「長州産業」。新規事業で必要とされる豊富で良質な水を探し求め下関市菊川町に足を踏み入れたことがきっかけで「児玉酒造」と出会った。15年もの間酒造りはしておらず廃業間近だった「児玉酒造」を、長州産業の岡本晋(すすむ)社長が、この地域の文化をここで終わらすわけにはいかないと、事業継承を決断。老朽化した酒蔵を解体して、「長州酒造」のキーパーソンとなる杜氏の藤岡 美樹氏をメインに新蔵を設計。建て替えた蔵は醸造から瓶詰、出荷まで効率良くできるよう酒造りに最適な設備と導線を緻密に考えられておりながらも、「児玉酒造」時代に使用していた煙突の赤煉瓦を砕き壁に練り込まれていたり、米を蒸す釜が庭にオブジェとして展示されていたりと、所々に「この土地での酒造りの歴史」が刻まれている。

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「天の恵みで醸す美しい酒」との願いをこめて付けられた「天美」という名前は、稲を育む「太陽」の神様といわれる「天照(あまてらす)」の『天』と、酒を意味する言葉「美禄(びろく)」の『美』から1文字ずつ取り誕生した。

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たった5名、しかもその内3名は酒蔵経験ゼロの未経験者でスタートを切った「長州酒造」の酒造りを率いるのは、女性杜氏の藤岡 美樹氏。親会社である「長州産業」の社長・岡本晋社長の熱意と想いに共感した藤岡氏は夫と子供を連れ、2019年にそれまで働いていた酒蔵がある三重県から山口県へと拠点を移した。 藤岡氏は農大卒業後、奈良県にある「八咫烏(やたがらす)」を醸す北岡本店で酒造りを学び、その後、香川県の川鶴酒造へ入社。9年務め、酒造責任者まで昇格した後、藤岡氏が理想とする、四季醸造や交代制で全員がなんでもできる仕組みづくりを大事にしている、清水社長や山内杜氏の考え方に魅了され、「作」を醸す地元三重県の酒蔵「清水清三郎商店」へ移り酒造りの知識と経験を深めた。 3蔵で下積みを重ねた、杜氏 藤岡美樹氏が造る、穏やかな香りと綺麗な味わい、そしてフレッシュな酸味が印象的な「天美」は、開栓直後と数日置いた変化を楽しめるのも特徴。開栓直後はフレッシュでジューシーな味わいに加え少し硬い印象があるが、数日経つとガスが抜けまろやかな乳酸のような優しい酸味が出たり、熟したフルーツのような柔らかい印象へと変化も楽しめる。そんな多彩な表情を持つ「天美」11本を飲み比べてみた。

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1. 天美 純米大吟醸 生原酒

りんごや柑橘類のフレッシュな果実香に、クリーミーな乳酸と米粉の香りが重なる。フルーティーな甘さを濃厚な旨みが支え、爽やかな酸味がバランスを調和してくれている。後味にミネラル感があるため、キレのある仕上がりになる。冷やして白ワイングラスや磁器製のおちょこで飲むのがオススメ。 マグロの刺し身や寿司、そして豚の生姜焼き、すき焼き、きんぴらなど、醤油を使った料理との相性が抜群。

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2. 天美 純米大吟醸 火入れ

甘い柑橘類の香りと、ヨーグルトの爽やかさを感じる。「天美 純米大吟醸 火入れ」は「生原酒」に比べて、甘味と豊かな旨味が凝縮され、柑橘系の酸味がより緻密に感じられる。心地よい苦味とミネラル感が、スッキリとした後味を引き立て、余韻が残る。 柑橘系の酸味に合わせるのは、海産物のミネラル感や塩味が聞いた料理との相性が良いため、刺し身や寿司、アサリなど貝類の蒸し焼き、海老のガーリックソテーなどと合わせるのが◎。

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3. 天美 純米吟醸 うすにごり生原酒 (桃天)

白桃の甘い香りと米の香りに、ヨーグルトのような爽やかな乳酸系が混じり合う。香りがそのまま味わいに繋がり、米から引き出されたまろやかな甘味・旨味が広がる。酸味と心地よい苦味のアクセントでバランスが取れていて、最後はミネラル感が残り、キレのいい爽やかな後味となる。 甘味、旨味、酸味はタイのシーフードサラダやパッタイ、ベトナムのチキンライスなどアジア料理の味を引き立ててくれる。

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4. 天美 純米吟醸 生原酒(白天)

マスカットや洋梨のフルーティーな香りと、米粉の甘い香り。口に含むと濃厚な甘味と旨味が一気に広がり、穏やかに消えていく。上品な苦味とキレのある酸が味のバランスを整え、後味は辛口スッキリ。食事と一緒に楽しめる飲みやすい1本。冷やして、赤ワイングラスで飲むのがおすすめ。 甘味と旨味そして苦味のアクセントは、魚介類や煮物、タレを使った料理との相性が良いので、穴子の山椒煮や鰻の蒲焼き、タレ味の焼き鳥などと一緒に。

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5. 天美 純米吟醸酒 火入れ(白天)

生原酒に比べ、「天美 純米吟醸酒 火入れ(白天)」はフルーティーな香りは穏やかになり、口当たりはなめらかで旨味が凝縮されているのが特徴。柑橘系の酸味と、後味に残る上品な苦味が全体のバランスを整えてくれる。生原酒と同様、食事に寄り添う食中酒となっている。 豊かな風味は、鶏肉や鴨肉を使った料理との相性が良く、シンプルなチキンソテーから、焼き鳥や手羽先、ローストダックと合わせるのがオススメ。

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6. 天美 特別純米 生原酒 (黒天)

蜜のたっぷりのった甘いリンゴやマスカットのフルーティーさと、ミネラル感が香りから感じる。インパクトのある味わいで、甘味、旨味、ジューシーな酸味のバランスが良く、心地よいミネラル感と苦味が辛口の印象を与える。10℃くらいの温度で飲むのがオススメ。 バランスの良い味わいは、様々な料理との相性が良いが、旨味、酸味、そしてミネラル感があるので、マグロやカンパチなど濃厚な味わいの刺し身と。また、海鮮あんかけ焼きそばや、ハタの中華蒸しなど海鮮を使った中華料理にも◎。

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7. 天美 特別純米酒 火入れ(黒天)

熟したバナナやぶどう、洋梨など落ち着いた印象。滑らかな舌触りで、米の旨味をしっかり感じ、飲みごたえのある味わい。柑橘系の酸味、上品な苦味が後から来るので、食事と合わせるのにピッタリ。 様々な料理に寄り添うが、味付けの濃い料理にも負けないので、温かい中華料理や、魚の煮付けなどと合わせて楽しめる。

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8. 天美 純米大吟醸 廣島千本錦

柔らかくミルキーな香りの中に、若いメロン、洋梨、白桃などの甘い香りが混ざり合う。口当たりが滑らかなのが特徴。酒米「千本錦」の優しい甘味と旨味を感じ、キレのある酸味と柑橘類の皮のような渋みが味わいを引き締める。 ミルキーな優しい香りは、鯛のマリネや、握り、鯛の昆布締めなど白身魚を使った料理と。ジューシーな酸味と旨味、ミネラル感は、生牡蠣など貝類や、カラマリ、さっぱりしたサラダ、素材の味を活かしシンプルに焼いた野菜、フレッシュチーズと良く合う。

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9. 天美 純米大吟醸 播州愛山

ラズベリーやシトラス系の酸味のあるフルーツの香り。口に含むと、優しいフルーティーな味わいが口の中を優しく包み込み、酒米「愛山」の甘味と旨味が口いっぱいに広がる。キリッとした酸味と柑橘系の皮のような苦味がスッキリした後味へと導く。 爽やかでバランスの良い味わいは、ノドグロの塩焼きや金目鯛の煮付けなど魚料理から、鶏肉にレモンを絞った一皿や山羊のチーズと合わせるのもオススメ。

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10. 天美 純米大吟醸 赤磐雄町

リンゴ、マスカット、アプリコットなどフレッシュな香りが上品に続く。柔らかくマイルドな果実の風味、中盤になると上品なコクが出てきて、最後は柑橘系のジューシーな酸味と渋みがシャープなアクセントとなり、キレのある後味を引き立てる。後味にハーブのような苦味がほのかに感じる。 まろやかな甘味、旨味、ジューシーな酸味、スッキリとした後味にはフレッシュトマトとチーズを使ったパスタや、白身魚とトマトスープのアクアパッツァなど、トマトをベースとしたイタリアン料理との相性が抜群。

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11. 天美 純米大吟醸 長州山田錦

黄桃、若いバナナの優しい香りに、ほのかにハーブの香りを感じる。ミディアムボディでジューシーな果実味と酸味が特徴。柑橘系の酸味が濃厚な味わいを落ち着かせ、キリッとした辛口の印象に仕上げてくれる。 コクとジューシーな酸味は、タイのシーフードサラダなど、柑橘類やナプラーを使ったアジアンスタイルの料理の味を引き立てる。

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まとめ1

特色が異なる酒蔵で下積みを重ねて行き着いた味が「天美」。 ブランドを立ち上げるや否や人気を博すお酒を生み出した杜氏、藤岡美樹氏が大切にしている「人」とのつながり、そして天美の立ち上げ時の貴重な話を語ってくれた。

まとめ2

「天美が誕生して2年半。コロナ禍での船出となり、最初は不安だらけでした。もちろん杜氏という立場で一から酒蔵の設計やブランドを育てることが出来るということに感謝はありましたが、同時にどうやってお酒を販売していこうという不安に押しつぶされそうな思いでした。 日本酒を造るには、沢山の機器を使います。どれも全て新しいものを使い、真っ白な段階から始めたので、予想ができないことが起こるのではないかという恐怖、さらには、製造スタッフは未経験者ばかりなど、一本目が搾られるまでは不安が募っていました。 そうして完成したお酒は、下関市菊川町の良質な水、蔵のスタッフ、そして立ち上げまでに携わってくれた方々に助けられ「皆に飲んで欲しい」と思うものになりました。 今はただ、美味しいお酒をお客様に届けたいという一心で、酒造りをしています。 弊社は、日本酒を初めて飲む方にも、いつも飲んでくださる方にも「美味しい」と毎回感動して頂けるお酒を造ることをモットーにしています。 最新の機器も揃えていますが、それだけに頼らず一つ一つ丁寧に、目配り気配りが行き届く範囲で、スタッフがきちんと丁寧に作れる製造量だけ作っています。 天美は沢山の人に支えられてできたブランドです。プライベートのことは中々こうやって話すことはないですが、私は家族に支えられているから杜氏という仕事ができています。長女が生まれてから主人が 家事や育児を担当してくれています。長女は大学生、長男は中学生になりましたが、家族の協力があって酒造りに集中できていることにいつも感謝しています。 4期目を迎えるにあたり、20代の新入社員が2名入社してくれました。 【微差は大差】をモットーに、酒蔵を0から立ち上げ、毎年仕組みをブラッシュアップし続けてきましたが、さらに進化させ、人財育成や技術の継承に注力ししなやかで強固な組織づくりをしていきたいと考えます。そのうえで、あらたな商品開発や地域との連携、蔵でのイベントなど、ファンの人たちにさらにワクワクしてもらえるような酒蔵に進化していきたいと思います。」

テイスティングコメント:ウイルソンライ レベッカ(Rebekah Wilson-Lye) 【ウイルソンライ レベッカ(Rebekah Wilson-Lye) プロフィール】 株式会社 JAPAN CRAFT SAKE COMPANY 海外PR・企画、輸出事業部長 SEC Certified Advanced Sake Professional WSET® Sake Level 3 Educator
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