連載第6回 違いがわかる有名銘柄飲み比べ

香りと味の調和、透明感に魅了され、国内外で高い評価を受ける『作』17本を飲み比べてみた

更新日2021年12月10日

この記事をシェアする

SharePosts
特集画像1

三重県鈴鹿市で明治2年に創業した清水清三郎商店。鈴鹿山系の伏流水と伊勢平野からの酒米など恵まれた地の利を生かし、他の蔵に委託されて造る桶売りを中心の酒造りをしていた。しかし、1980年代の日本酒低迷期に危機感を募らせ、1998年に自分たちのブランド『鈴鹿川』を、さらに1999年に特約店限定の銘柄『作』を立ち上げた。「普通酒を作るような大きなタンクで作っても再出発にはならない、小さな仕込みで本醸造から大吟醸まですべての酒を丁寧に造る」という意気込みで温度をしっかり管理できる小さなタンク2本からスタート。地道に研究、改良を重ねた努力が実り、2016年、G7伊勢志摩サミットの乾杯酒に採用され広く知られるようになった。また、2017年には「SAKE COMPETITION」や「全米日本酒歓評会」はじめ国内外のコンペティションで数々の賞を受賞し、人気は不動のものになった。

特集画像2

蔵を出てから手元に届くまで味が劣化しないよう必ず火入れをするというこだわりを持ち、空調などの設備も強化。高度な温度調整機能を備えた小型タンクで四季醸造を行い、年間を通してフレッシュな酒を出荷できるようにしている。原料米や酵母、造りを変えて生み出される酒は、最高峰の味わいを堪能できる『筰』から手軽に飲むことができる純米酒まで多種多様。定番の『穂乃智』を筆頭に『玄乃智』、『雅乃智』などのレギュラーシリーズと、『筰 クラウン』『陽山一滴水』『槐山一滴水』など少量生産で手間暇をかけ、杜氏のこだわりを凝縮させたプレミアムシリーズ計17本を飲み比べてみた。

特集画像3

酒蔵情報を見る

1. 筰 クラウン 杜氏特撰秘蔵酒

洋梨や柑橘系そしてミネラルなど、重層感がありながらも調和のとれた香り。甘美な果実の甘みが口の中で滑らかに広がり、次第にふくよかで豊かな味わいと複雑さが出てくる。最後は洗練された酸によりキレのあるフィニッシュへ。和牛やフォアグラのグリル、鮑の煮込みなど旨味が強い豪華な食材を使った料理や、中国料理の濃厚で複雑な味に合う。

この日本酒詳細を見る

2. 作 智(さとり) 純米大吟醸 滴取り

『筰 クラウン』と似て香りはエレガントながらも控え目。口の中で熟した果実の贅沢な味わいが膨らみ、次第に凝縮していくがキレもあり、後味に白胡椒のようなスパイシーさの余韻が残るので、バターソースを使ったランス料理や、香り豊かな魚介のムニエル、鶏肉料理などと合う。

この日本酒詳細を見る

3. 作 大智 大吟醸滴取り

柑橘類、黄桃などを思わせる華やかな香り。ジューシーな果実の豊かな味わいには驚くほどの透明感、清らかさを感じる。後味に胡椒のようなスパイシーな風味があり、モッツアレラなどフレッシュなチーズを合わせたくなる。キレ味も素晴らしく、和牛のステーキなどの脂もすっきり流してくれる。

この日本酒詳細を見る

4. 作 なぐわし 東条山田錦

洋梨やメロンのような魅惑的な香り、甘くフルーティーな味わいが口の中で滑らかに広がり、次第に豊かさ、複雑さが現れてくる。ジューシーな酸味、ミネラル感が長く残り、キレの良い後味でどんな料理にも合う万能感がある。特に野菜のグリルやガーリックシュリンプなどイタリア料理やスペイン料理の海辺の料理に合わせたい。

この日本酒詳細を見る

5. 作 槐山一滴水 純米大吟醸

完熟したトロピカルフルーツの香り、優しい甘みとともに舌の上に滑らかに広がるエレガントな飲み心地。柑橘類の皮の苦味がアクセントになり、後味はやや辛口。ベトナムやタイなど東南アジアのハーブ、唐辛子を使ったサラダや魚介料理によく合う。また、天ぷらなど揚げ物とも相性が良い。

この日本酒詳細を見る

6. 作 陽山一滴水 大吟醸

桃のような華やかな香り、優しく滑らかな口あたり、甘美な果実味がしっかりとした旨味に支えられている。キリッとした酸味が豊かな味わいを引き締め、後味は辛口。オリーブオイルを使ったサラダや野菜のグリル、フレッシュチーズ、イワシやブリ、サーモンなど脂の乗った魚との相性も抜群。

この日本酒詳細を見る

7. 作モナド

洋梨、青リンゴやハーブを思わせる爽やかな香り。飲み心地滑らかに優しい味わいが膨らんでいく。甘み、酸味、旨み、苦味のバランスがよく緻密な印象。後味はすっきりとして飲みやすい。爽やかな風味とミネラル感は、塩やオリーブオイルでシンプルに焼いた野菜や魚介類、豚肉、白身魚のカルパッチョやフライなどに合う。

この日本酒詳細を見る

8. 作 白鶴錦

控え目ながら、メロンやグレープフルーツの皮を思わせる香りが漂う。ふくらみと深い味わいが特徴の酒米「白鶴錦」から引き出される優しい甘みを爽やかな酸味が引き立てる。後味はハーブのような心地良い苦味があり、エビ、ホタテやとうもろこし、筍の天ぷらなど自然な甘みのある食材と相性が良い。ベトナム料理のマイルドな辛さにも◎。

この日本酒詳細を見る

9. 作 岡山朝日米 純米大吟醸

長く続くフルーティーでフローラルな香り、ほのかに甘みを感じる味わい、滑らかな質感が特徴的。中辛口で、穏やかな飲み心地、後味にはライムの皮、白胡椒のスパイシーさが感じられるので、白身魚やホタテ、タコ、イカなどの刺身と相性が良い。また、控え目で優しい味わいは、魚介類の蒸し物や豆腐、湯葉料理などと伴走する。

この日本酒詳細を見る

10. 作 雅乃智 中取り 純米大吟醸

フローラル、青リンゴの爽やかさ、ヨーグルトなどの重層的で華やかな香り。軽やかで透明感を感じさせながらも複雑で深みのあるまろやかな味わい。バランスのとれた酸味、ミネラル感、柑橘系の苦味が相まったエレガントな辛口なので天ぷらや、上質のオリーブオイルを使ったシンプルなパスタ料理、山羊のチーズなどと合わせたい。

この日本酒詳細を見る

11. 作 FLINT

フローラル&フルーティー、ヨーグルトのクリーンで軽やかな香り、そして同様に軽やかで優しく綺麗な味わい。柑橘系の苦味とミネラル感、ドライな後味で、ポテトサラダなどマヨネーズを使ったサラダ、甘みのある魚介や野菜の天ぷらなど、さっぱりとしながらも油分のある料理と合う。また、ステーキの脂を鋭いナイフのように切ってくれる。

この日本酒詳細を見る

12. 作 奏乃智 純米吟醸

青リンゴやライム、トロピカルフルーツなど軽やかで爽やかな香り。さくらんぼの甘酸っぱさ、ミカンの皮を連想させる甘苦さにしっかりとした旨み、そして複雑さも加わったバランスのとれた味わいは、生の貝や、焼いた甲殻類の自然な甘み、旨み、ミネラル感と調和する。また、スモークチキン、白カビチーズなど香りが強い食材にも合う。

この日本酒詳細を見る

13. 作 雅乃智 純米吟醸

梨やメロン、ライチなどの穏やかで綺麗な果実の香りの中に、蒸した米やヨーグルトのまろやかな香りも感じられる。味わいも米から引き出された自然な甘み、穏やかな酸味、上品な旨みにほのかに苦味も調和。口の中でふんわりふくらみ、滑らかに広がっていく。春菊、ピーマン、鮎、あさりなど少し苦味を感じる野菜や魚介料理との対比を楽しむのに最適。

この日本酒詳細を見る

14. 作 Z

洋梨、白桃のような穏やかな甘い香りに、ほのかな乳酸、そしてミネラル感が漂う。優しい甘みと旨みのバランスがよく、中辛の後味の中に、ライムの皮のような爽やかさと山椒のような苦味のあるスパイシーさを感じるので、脂の乗った魚やホタテ、バターや生クリームを使った料理との相性が抜群。

この日本酒詳細を見る

15. 作 穂乃智 純米

パパイヤ、グアバなどトロピカルフルーツの華やかな香りに加えて、ハーブの香りも。甘くて旨みのある味わいが爽やかな酸味、ハーブのような心地よい苦味によって引き立てられている。キレのあるシャープな飲み心地は、天ぷら、フライなど揚げ物の油を切るのに最適。鰻の白焼き、ローストチキン、ステーキなどシンプルな焼き物にも◎。

この日本酒詳細を見る

16. 作 玄乃智 純米

バナナ、リンゴ、クリーミーなヨーグルトなどの優しい香り。豊かでしっかりとした味わいをキレの良い酸が引き締め、爽やかでドライなフィニッシュへと導いてくれる。後味にはレモンの皮のような苦味と辛味があり、野菜から魚介類、肉類など何がきても万能。特に炭火焼に合うので焼き鳥ほか串焼きに是非。

この日本酒詳細を見る

17. 作 恵乃智 純米吟醸

熟した甘いフルーツの中に酸味のあるライム、そしてほんのり米粉の香り。ふくよかで芳醇な味わいが口の中で滑らかに広がる。次第にジューシーな酸味、柑橘類の皮のような爽やかな苦味が甘美な味わいを切ってスッキリとした辛口寄りの後味に導いてくれる。マッシュポテト、グラタン、リゾット、クリームシチューなどクリーミーで濃厚な味わいの料理と相性が良い。

この日本酒詳細を見る
まとめ1

『作』のブランド名は、「これから作り上げる未完成のもの」という思いのもと、「職人が酒を作り、飲み手がその価値を作る」というコンセプトから生まれたという。種類は多いが、レギュラーシリーズもプレミアムシリーズも透明感があり、甘み、旨み、酸味、苦味など何かが突出するのではなく、調和のとれた丸みのある味わいを徹底させているのが感じられ、「欠点がない綺麗な味わいこそが目指す個性。当たり外れがあると言われるのが一番の屈辱」という考えが伝わってくる安定感のある味わいだ。

まとめ2

生酒を出荷しないというこだわりを持つ蔵というのも特徴。リスクを負った美味しさを追求するのは、酒蔵の自己満足。酒を売る人が客に薦めたくなったり、あるいは、一緒に合わせる料理との相性だったり、最終的に飲み手の口に入った時に喜びに変わることで真の価値が作られるという謙虚さが貫かれていて、何を飲んでも美味しい。しかも、どんなに豊かな味わいでも、最終的にはキレが良く、料理にも合わせやすく、雑味のないすっきりとした美しい透明感で心を癒してくれる。親しみやすい穏やかな味わいながらも、エレガントな印象。その品格の高さが静かな個性として心に残る。

テイスティングコメント:ウイルソンライ レベッカ(Rebekah Wilson-Lye) 文章:藤田実子 写真:清水清三郎商店 【ウイルソンライ レベッカ(Rebekah Wilson-Lye) プロフィール】 株式会社 JAPAN CRAFT SAKE COMPANY 海外PR・企画、輸出事業部長 SEC Certified Advanced Sake Professional WSET® Sake Level 3 Educator ニュージーランド出身の日本酒専門家。 2016年からIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)の日本酒部門の審査員を務め、企業や5つ星ホテル、世界有数のレストラン向けの日本酒コンサルタント、日本酒教育、世界市場向けのトレーサビリティーのあるマイナス5℃の日本酒輸出システムの開発などに携わり活動中。
日本酒をより楽しめるアプリSakenomyを今すぐダウンロード!
日本酒をより楽しめるアプリSakenomyを今すぐダウンロード!
TOP